2019/06/24
TVアニメ放送直前!荒ぶる文芸部キャスト5人の座談会
──まずは河野ひよりさんから、演じるキャラクターとの出会いを教えてください。
河野 「和紗は私のことでは?」とすごく共感できて、自分の思春期を和紗を通じてやり直しているみたいなんです。私の心のダムが「ザパーン!」と決壊していくような体験です。
黒沢 今の言葉、たぶん見出しになるよ(笑)。
安済 気になって、私なら読みたくなる!
黒沢 下ネタにしか聞こえないですけどね。
上坂 ちょっと、やめなさいよ! 本郷さん!!
──まるで文芸部のやり取り! その和紗を突き動かすのが、安済知佳さん演じる新菜です。
安済 「私、もうすぐ…死にそうなので」という新菜の言葉に「わかる」って感じたんです。私もすぐに「生きるか死ぬか」で考えちゃうから。
黒沢 「このために生きる、これをやるまでは死ねない」ってすごい言うよね。
安済 そうそう。新菜は「死ぬまでにしたいこと」を問われて「セックス」と答えるのですが、文学や演劇で触れるその題材を、一度は経験したいというまっすぐな願いだと私は感じました。自分の世界観が強くある人の方が、私にとっては「わかる」と思えるんです。
──麻倉ももさんは和紗の親友である百々子を演じますね。
麻倉 百々子にはシンパシーを特に感じていたから、役に決まったときも納得しました。百々子と同じく、私も普段は聞き役になることが多いんです。でも、誰にとっても当てはまる部分があるはずです。
──本郷先輩ことひと葉に、黒沢さんは共通点を感じますか?
黒沢 私自身とひと葉の共通点はコレというものが閃かなくて…。作中で描かれていく性に目覚める乙女心についても、自発的にというより小さい頃から演劇をやってきて作品を通して学んできた事でしたので4人みたいに「わかる!」って感じはしないのですが、それがむしろ私の中でファンタジー感があってそれもまた楽しいです。
──上坂さんは、り香にどんなイメージを抱いていましたか?
上坂 マネージャーに「このキャラは上坂さんに似ている」と言われて。たしかに髪型もメンタリティも近しいものがあり、演じるのが楽しかったです。
安済 見た目からして似てるよね。
上坂 しかも、私は高校時代、ずっとメガネでおさげだったんです。メガネからコンタクトに変えてみたらイジられたこともあったし、まさに曾根崎さんは「友よ!!!」って思いましたね。回りくどいけれど本質が少しポンコツなところに類似点も感じますし。
──本作は漫画の原作とアニメの脚本を、同じく岡田麿里さんが担当していることも特色のひとつかと思います。アフレコ前に、岡田さんからメッセージなどはありましたか?
河野 最初の収録の時、岡田さんが「この作品はコメディーですから楽しくやってください」とおっしゃって、すごくびっくりしたんです。原作を読んでいた限りは、「苦しみ」や「心のざわめき」といった、まさに「荒ぶり」が目立っていたので。だけど、「コメディーです」と言われてから演じてみたら、たしかにシーンの展開や切り替えでクスッと笑えるところも多くて。そうしたら、彼女たちの「荒ぶり」が滑稽にも見えたりするんです。だから、胸が苦しくなりすぎずに楽しめるのかなぁって。
安済 岡田さんは「童貞を扱ったコメディーはあるけれど、処女を扱ったコメディーはないから作ってみました」ともおっしゃってましたよね。童貞と処女って、ある意味では同じなのに、扱われ方が全然違うじゃないですか。処女はどこか神聖化されているけれど、童貞が「ぷーくすくす」なのはなぜだろうな!? と。
上坂 たしかに!
安済 それを覆すような作品になったら面白いですね。
上坂 逆に童貞が神聖になる…?(笑)「処女コメディー」と聞いて思い出したんですけれど、曾根崎さんがイライラしながら体育の授業を受けていて、猛ダッシュで向かった跳び箱に鼠蹊部を強打してしまうんです。すると、ギャルの同級生から「 処女膜破けたんじゃねー?」と言われ、走り去ってトイレへ行くも「確認のしようがない…」って涙するシーンがあって。漫画で読んでいる時は「なんて可哀想なんだろう」って思ったんですけど、演じてみると「この人、バカなの…!?」って(笑)。
(みんな 大笑)
安済 愛すべきバカ! あれね、かわいいよね。
上坂 少女の哀愁ギャグが炸裂していて。和紗が「たたきキュウリ」に性を感じてしまったり、本郷さん命名の「うっちゃり大一番」とかも。
黒沢 大事なキーワードになる「えすいばつ」も、なるほどなぁって思いましたもん。
安済 わかりやすいのに、ぱっと聞いてもわからない感じ。セックスの言い方ひとつとっても、こんなに考えつく?
上坂 「処女ギャグ」って、たくさんあるんだなって気づかされますよ。
麻倉 でも、本人たちは大真面目に語ったり、行動していたりするから愛しくて、ちょっと笑えるというか。
上坂 和紗が幼なじみの「アレの現場」を目撃した時、街を駆けていくシーンにも感じますよね。演じているひよりさんは大変だと思うけれど(笑)。
安済 「だってあんなの………絶対…入らない…」からの……
河野 「はッ 入った」ですよね(笑)。
上坂 あのシーンも当事者だったらしんどいけれど、見ている方は「荒ぶり」がすごすぎて笑ってしまう!
安済 だけど、なんでも“性”に繫げちゃう感じって、誰しもが通る道じゃないかって思うんです。私もある時、和紗と同じく「自分が生まれたってことは両親もセックスしたんだ!」とハッとなり、「父もオスだったのか!」と荒ぶったことありましたもん(笑)。その当時の私がこの作品に出会っていたら、きっと読めなかったはずです。あまりにも当事者すぎて。
河野 彼女たちの葛藤が第三者からどう見えるかを、気遣いなく描かれているのが爽快です。自分の味わってきた青春の甘酸っぱさを、違う見方で味わえていて、すごいストーリーだなって感じます。
上坂 しかも、1話に3話分ぐらい入っていると錯覚するくらい、内容が詰め込まれていますよね。それでいて情報過多ではなく、テンポもよくて。4話を収録した時に、もう1クール終わったような気持ちになっていました(笑)。
黒沢 たしかにテンポも素敵。原作を作っている方たちが、一緒に作ってくださっているアニメだからこそ生まれるテンポ感があるな、と思っていて。物語は潔く、ある意味ではとんとん進んでいくんですけれど、自分たちの思考から半歩先、一歩先へ進んでいるような感じで、飽きずに最後まで見させてくれる。それが素敵だなって、いつも思います。
安済 たしかに、原作とアニメで脚本家が同じだからこそできる演出もあるんだ! って、私は勝手に楽しんじゃってますね。
黒沢 それに、文芸部5人の悩みや葛藤のストーリーが、時系列では同時に進んでいるのも面白いなぁって感じながらアフレコしています。
安済 大勢の恋模様が一気に動いているのに、とっちらかって見えないんですよね。文芸部5人に対して男子陣もそれぞれ絡むから、ほとんど10人分が同時並行なのに。
黒沢 思想の奥の奥が繫がっている状態で物語が進むので、見ている側もあれこれと一緒に考えながら楽しめる構成だからかな。付き合うことがゴールの子もいるし、付き合うところから始まる子もいる。でも、悩んでいることはだいたいみんな同じで、速度は一緒じゃないけれど……という塩梅が、すごく岡田麿里さんの脚本だなぁ、という感じを受けます。
麻倉 思春期の細かな感情の揺れ動きを、丁寧に描いてくださっていますよね。
上坂 丁寧でいえば、台本の「ト書き」も、読むだけでワクワクしちゃうくらい面白い。
安済 ト書き、面白いよねー!
上坂 作品によっては、キャラクターの名前と、「見る」や「走り去る」といった最小限の動きだけが書かれていることもあります。でも、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』のト書きは台本を読むだけで絵が浮かんでくるようで。曾根崎さんに関して言えば、動きがすごくオーバーかつ多いキャラなので、セリフの1行ごとに動作の説明が書いてあったりします。「曾根崎、カッと目を開き、わたわたと手を振り、おもむろに立ち上がり、恫喝!!」みたいな感じで、びっくりマークが多め。ぜひ何かの機会で、台本も読んでもらいたいですね。
──文芸部の女子たちを深く知るみなさんだからこそ聞いてみたいのですが……もし、この部活の顧問になったら、どんな本を手渡してあげたいですか?
安済 『ドラゴンボール』。
(みんな 大笑)
安済 「もっと分かりやすいエンタメを読みな! みんな考えすぎだよ!」って言いたい。
麻倉 私なら『聖☆おにいさん』を渡すかもしれないです。「これでも読んで頭を一度リセットして、離れてみると見えることもあるかもよ!」って(笑)。
上坂 まさに…仏の心…! 同じく講談社枠ということであれば、『なんでここに先生が!?』をオススメします! あれはあれで『荒ぶる季節の乙女どもよ。』とは対照的ですけれど…(笑)。
麻倉 あと、私が好きな東野圭吾さんの『秘密』あたりで、本当の愛について触れてもらうのもいいかなぁ。
黒沢 文学でいくなら、三島由紀夫の『不道徳教育講座』は、みんな好きそう。「泥棒せよ!」とか「噓をつけ!」とか、反社会的な切り口のように見せて、実は回り回って言いたいことは別にあるっていう短編集。文芸部の読書会にも合ってそうだし、常識を一度壊して考えてみようか、と顧問らしく言えそう。
上坂 読書会繫がりで、赤瀬川原平さんの『超芸術トマソン』なんてどうでしょう? 街歩きの指南書ですね。「途中で切れている階段」みたいに、街にある全く役に立たないものを調べていく本です。この文芸部なら、あらゆるものに卑猥を見出して、曾根崎さんが「こ、こんなもん、今すぐ排除すべきよ!」とか言って、ひと盛り上がりしそうな感じがありますけれど。
安済 盛り上がりそうって意味では、サスペンスばっかり読んでいる私からは、浦賀和宏さんの『眠りの牢獄』を渡したいですね。本だからこそできる表現があって面白いし、カニバリズムも性的な行為もあって……以前に黒沢さんへ貸したことがあるんですけど、感想の一言目が「エロい」でした(笑)。
(黒沢さん、何も言わずに「にこにこ」している)
安済 でも、「エロい」って言われて、「そういえばそうかもしれない」と気づいたんです。だから、文芸部のみんなにはサスペンスの要素も「性的! 性的!」ってなるかもしれないし、その光景をちょっと見たいですね(笑)。
上坂 サスペンスって、事件の行方を追っかける人と、ドロドロの描写を追っかける人に分かれますもんね。面白い。
河野 短歌なんてどうですか? 私は短歌が好きで、専門学校時代の合宿に短歌集を持っていって、バスの座席が近かった子たちと、短歌の解釈について話してみたことがあるんです。「ヨーグルトの蓋の裏 舐める時はいつもひとり」みたいな歌を選んで、これはハッピーな感じ? それとも寂しい? って感情や、舐めているのが一人暮らしの男性だったら? 子育ての合間のお母さんなら? みたいに、観点を変えて考察するのが楽しくて。文芸部でも、そういうことをやってもらったらいいんじゃないかな、と。
安済 うわぁ、それは意見がバラバラだろうね!
河野 面白いんですよ! 今度、持ってきますね。この「文芸部」でもやってみましょう!
(文・構成=長谷川賢人)